大分地方裁判所 昭和41年(ワ)2号 判決 1967年3月28日
原告
新国鉄大分地方労働組合
右代表者
甲斐信一
右訴訟代理人
安部万太郎
被告
国鉄労働組合大分地方本部
右代表者
鈴木一馬
被告
大分県労働金庫
右代表者
荒木俊英
被告両名訴訟代理人
吉田孝美
同
大野正男
同
田邨正義
主文
原告と被告国鉄労働組合大分地方本部との間において、原告が被告大分県労働金庫に対して別紙目録記載の預金等のうち合計金四、四八〇、三二八円の払戻請求権を有することを確認する。
被告大分県労働金庫は原告に対し金四、四八〇、三二八円ならびに右金員に対する昭和四一年一月一四日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告の被告大分県労働金庫に対する預金払戻請求権存在確認の請求はこれを却下する。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを四分し、その一を原告の、その余を被告等の負担とする。
理由
一、本件預金等の従前の権利主体。
(一) 従前の国鉄労働組合大分地方本部(元大分地方本部)は単一労働組合たる国鉄労働組合(国労)の下部機関の一つで、国鉄大分鉄道管理局管内に勤務する国労組合員をもつて組織されていたものであること、本件預金等が元大分地方本部の執行委員長甲斐信一名義で被告労働金庫に預入されていることについてはいずれも当事者間に争いがない。
(二) そこで、先ず元地方本部が財産主体となりうるか否かにつき検討するに、(証拠)を綜合すれば、元大分地方本部は前示のとおり国労の一下部機関ではあるが、大分鉄道管理局管内の国労組合員をもつて組織され、固有の代表者、決議及び執行機関を有し、固有の規約、規則を具え、国労規約ないし大会決議によつて拘束を受ける場合もあるものの、その独自の問題については団体交渉、協約締結等自主的な行動権限を保有し、固有の資産収入を有し、対外的にも自己の名において独立の財産上の取引活動をなしていたものであることが認められる。
右事実によれば、元地方本部は法人格こそ有しないが実質的には独立の統一的組織体、即ち社団たる実質を有し、従つて自ら固有の資産をも有しうるものと認めるのが相当であつて、その財産主体をこれと別個に観念すべきであるとする原告の主張は採ることができない。
(三) 次に、証拠によれば、地方本部は所属組合員より徴収した規定の組合費を一旦国労本部に上納するが、これらのうちから交付金の形で再配分を受け、これを独自の権限において組合活動資金に充てるものであること、本件預金も元地方本部に対する右交付金を中心とし、そのほか元地方本部独自の組合費(斗争基金、犠牲者救済基金等)などを加え、元地方本部の各年度の収支黒字分を積立てて預入(ないし出資)されていたものであること、しかして、従来から元地方本部に対する加入、脱退などその構成員の移動がある際でも、本件預金等に関して右移動構成員の個々人に対して新たな拠出を求めたり、払戻をなすなどの処置はとられておらず、また予定されていなかつたことを認めることができ、この認定に反する証拠はない。
右の事実に前段(二)の認定事実を綜合すれば、本件預金等は名実ともに法人に非ざる社団たる元地方本部固有の財産(つまり実質的にはその構成員の総有財産)としてこれに帰属していたものと認めるのが相当であつて、右預金に対する元地方本部の各組合員の持分の観念を容れる余地はないものと解される。
そうだとすれば本件預金についてこれる前示組合員団体の各構成員の合有財産たることを前提とする原告の主張(請求原因一)は理由なきに帰する。
二、本件預金等の帰属関係。
(一) 元地方本部の組織の変動
原告は元地方本部は原告組合に組織変更された旨主張するので、この点につき判断する。
(イ) 元地方本部が、かねて各地方本部に対応する県労評への加盟方針を掲げた国労本部の意思に反し、昭和三九年二月の臨時地方大会(以下二月大会に略称する)において県労評脱退を決議し、これを推していたものであること、これに対し、国労本部は元地方本部の執行委員の大部分に対し統制権を発動して職務執行の権限を停止する措置をとつたことについては当事者間に争いはない。
右のほか(証拠)によればなお以下の事実を認めることができる。
即ち、国労本部はかねてから右県労評加盟のほか社会党支持等をその基本方針として明らかにしていたのであるが、元地方本部執行部は数ケ年にわたる大分県労評との間の意見の対立をも反映して、国労本部の右意向に同調せず、県労評脱退、全日本労働組合総同盟組合会議傘下への指向ならびに民主社党支持の方向を目ざし運動を展開しつつあつた。尤も、組合内部にも右執行部の運動方針に賛同せず国労本部に同調していこうとする組合員も相当数存在しており、双方相対立して長期にわたる抗争のなかで、活発なオルグ活動などを続けていたのであるが、昭和三九年二月春斗のための臨時地方大会が招集されるや、右執行部は自らの右運動方針案を議題として上程し、その採決にはかなりの紛糾と混乱をみたけれども、遂には多数を制して承認可決されるところとなり、更に同年八月の定期地方大会においても、同様混乱のうちに右方針が再確認され、且つ元地方本部執行部の選任においても、大部分を従来の執行部が制するところとなつた。
右の動向に対して、国労本部は右二月及び八月の各大会にそれぞれ同本部執行部の幹部を派遣し、元地方本部の決議しようとする運動方針が、国労の各下部機関にその対応する県評又は地区労(地区労働組合評議会)加入を規定する国労規約第一〇条に違反するものあるでなどのことを挙げて、再三説得せんと試みたが元地方本部執行部ならびにその同調派の容れるところとならず、昭和三九年一〇月六日には国労本部ならびに総評の各幹部を大分市に派遣し、元地方本部執行部並びにこれに同調する者を重ねて説得しようとしたが、この時点に至つては既に対立は深刻な様相を呈し、右説得の機会を持つことすら出来なかつたためこれを断念し、同月八日国労本部の方針を無視する元地方本部の執行委員を執行部から排除する目的をもつて、中斗指令第八号として右執行委員八名のうち七名に対しその職務執行の権限、選挙権被選挙権停止の処分を行うに至つたものである。以上の事実が認められ、他にこれを覆すに足る証拠はない。
(ロ) ところで右処分に前後して、国労本部の処置を不満とする元地方本部の執行部ならびにこれに同調する多数の組合員が国労本部を離脱する決意をして、同年一〇月一六日大会を開き、新国鉄大分地方労働組合を結成したことについては当事者間に争いないところであるが、右のほか(証拠)綜合すれば、なお以下の事実を認めることができる。
即ち、元地方本部の執行部は前示処分が行われる直前頃、既にその事態を察知し、自らの方針を維持してこれを進めて行くには、元地方本部の組織を挙げて国労と袂を分かち独立の組織に転化する以外に途なしとの判断に到達しており、これを実行に移すため、その準備として国労に対する脱退届及び新組合に対する加入届の用紙を大量に印刷したうえ、これを一般組合員に配布して組合員に呼びかけるとともに、同年一〇月九日緊急に臨時地方大会を招集し、大会の議決によつて元地方本部の全組織を挙げて国労から分離することを企図し、前日たる同月八日、右地方大会準備のための協議会を行うべく予定していたのであるが、当日に至り国労本部の前示処分通告がにわかになされる情勢になつたことを知り、かねて電話連絡等により右対策協議のため招集していた執行部役員及び執行部の方針に同調する元地方本部の支部、分会役員等によつて同日正午頃大分市内の「偕楽荘」において緊急集会を開き、現状の最終的な検討、運動方針の再確認をなし、今後の行動につき具体的に協議を行つていた矢先、遂に前示処分通告を受けるに至り、これとともに元地方本部内の執行部反対派(即ち国労本部同調派)が国労本部の幹部等とともに元地方本部の組合事務所を多数で占拠するなど双方の対立は険悪の頂点に達したため、右執行部は予定していた一〇月九日の地方大会を開催しても大混乱が生じることは必定であり、大会の目的達成のみならず大会の開催自体さえ不可能と判断し、ここにおいて、右集会に参加した執行部同調派のみによつて既定方針たる国労離脱、新組合結成を再確認する申合わせをしたものである。
原告は、右認定事実に反し、同年一〇月八日当時の執行部によつて臨時地方大会が開催され、この大会において元地方本部の国労脱退及び新組合結成の形式をとつて組織変更をなした旨主張し、(証拠中)には一部右主張に副う記載もあるが前掲の各証拠に照したやすく信用しがたく、かえつてその主張の大会なるものは実際には右に認定の集会を指称するものであることが窮われ、右集会は右認定から既に明らかな通り元地方本部の規約に基く正式の決議機関に相当するものではないことが認められる。また(証拠)は原告の主張する地方大会の議事録の形式を具え、右同日の大会の経過を記録したような体裁を整えているけれども前記認定の事実ならびに弁論の全趣旨に照せば事実に合致するものとは認め難い。その他前記認定を覆すに足りる証拠は存しない。
次に、(証拠)によれば、前示一〇月八日の集会後の同月一六日、国労と袂を分つべく決意したもののみが相集つていわゆる新組合結成大会を開き、その名称を新国鉄大分地方労働組合とし、役員を選出し(大半は元地方本部の役員をもつて充てられた)、新たな規約を設けて国労とは名実ともに別個独立の組合として、元地方本部組合員の三分の二に相当する二、六〇〇名程度(後に約二、四〇〇名)を結集組織して組合活動に入り、他方、国労本部に同調する約一、二〇〇名(後に約一、四〇〇名)は同年一一月二四日再建臨時大会を開き、新たな役員を選出するなど組織の整備をなし、自らの組合が元地方本部と終始同一性を有するものであると主張し、国労の本部からもその旨承認されているものでこれが被告組合であることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
以上の事実からすれば一〇月八日の元地方本部の地方大会ならびに同大会における組織変更の決議の存在を前提とする原告の主張(請求原因一、二)はその前提を欠き理由なきに帰する。
(二) ところで、叙上の事実をみるに元地方本部は、原告組合と被告組合とに分離せられ、請求原因(三)における主張のように事実上消滅に帰したというを相当とするが、この現象をいわゆる組合の分裂として捉えうるか否かにつき検討する。
(イ) 労働組合にいわゆる分裂なる法概念を是認すべきか否か、仮にこれを積極に解するとしてもいかなる要件のもとに認めるべきかについては異論の存するところであるが、少くとも複数の組合が相合して一個の組合を形成するにいたるところの組合の合同なる法概念(労働組合法その他に規定は存しないけれども、組織力をもつて建前とする労働組合の本質に鑑み、且つ商法に定める会社の合併から類推できる)を容認する限り、社会的実態としての事実上の分裂の存在を直視し、右にいわゆる合同の逆現象として「組合の分裂」なる法概念もこれを是認し得べきものと考えられる。しかして労働組合の内部に相対立する異質的な集団が組織的に成立し、これらの対立抗争甚しく、これを超える全一の組織体として存続活動をすることが不可能ないし著しく困難となり(この段階は団体の本質的原理たる多数決による意思決定の機能停止によつて認められる)、統一体としての存在意義を失い実質的な分離状態に至つた場合は、構成員の個別的或いは集団的脱退の場合と異り、これを組合の分裂と観念するを相当と解する。(これに反し分裂なる法概念を否定するときは、すべての分裂を脱退概念に解消させることとなり、いかなる分裂団体をもこれを脱退者の単なる集団として一切の財産上の権利を否認する結果を招集し、その不公平は覆い難くなる。)
このことは、単一法人の下部機関にあたるものであつても、それが法人に非ざる社団として固有の代表者、決議及び執行の機関を具え、独立の社会的活動を営むものである限り、右下部組織においても発生しうるものであり、殊にその固有の財産(これにつき上部団体は直接には何の権利も有しない)の帰属に関して主体における分裂の有無を判断しようとする場合においては、端的に下部組織それ自体に前記分裂概念を適用して判断すれば足るものと解される。
(ロ) 翻つて、これを本件における前記事実関係によつてみれば、元地方本部はその内部において根本方針をめぐり二派の勢力が鋭く対立抗争を続け、二回にわたる組合大会においては多数派の意図どおりに一応の意思統一をみたというものの、これが国労本部の基本方針に背馳するものであつたため、右国労本部の強力な働きかけによつてはいつ逆転するかも測り難い流動的な情勢にあつたところ、果して国労本部の介入するところとなり、元地方本部執行部を排斥し、前示二回にわたる地方大会決議を無視して国労本部の方針に副つた意思統一を企図したことから、少数派も気勢を加え、遂に元地方本部内部の国労を出ようとするものと、これに留ろうとするものとの潜在勢力が、明確に国労脱退派と国労残留派という形をとつて極端な対決状態に陥り、両派の参加による地方大会の開催は全く期待し難い情勢となり、両者を結合する単一社団としての統一的意思形成の場は全く失われ、少くとも昭和三九年一〇月八日の前記「偕楽荘」における会合を境に、形式的には一個の社団でありながら実質的にはその内部に二個の組織が成立し、元地方本部本来の統一的組織体としての実質は破壊され、約三分の二に相当する者が独自の方向を辿るに至つたものであるから、ここに元大分地方本部は法律上分裂を生じたものというべきである。
なお、原告は右分裂を目して個別的脱退の集積したもの、つまり集団的脱退にすぎないと主張するが、なるほどその手続形式において本部に対する脱退届提出の方法がとられ、その数も国労全組合員との関係では多数とはいえないけれども、本件に関しては元地方本部の分裂の存否自体を考察すれば足りることは前述のとおりであり、また分裂の存否は実質的に判断すべき事柄である。殊に分裂発生後における形式的な手続はその成否を左右するほどのものではなく、しかも前掲(証拠)によれば規約に定める通常の脱退ではなく、下部組織あげての離脱であることを意識し、規約にも定めのない国労本部に対する直接脱退の形式をとつたものであることが認められるほか前掲(証拠)の国労規約によれば国労からの脱退には所属地方本部の承認を要する旨の規定が存在しているのであるが、本件の離脱につき右脱退届に対しこれが承認をなされたことを認めるべき証拠はなく、また前掲(証拠)によれば元地方本部執行委員六名については脱退届提出後これを無視して改めて除名処分がなされていることが認められるのであるから、脱退届提出の事実自体は何ら分裂の認定に妨げとなるものではない。
(三) そこで、前示認定の分裂を前提として本件預金の帰属関係につき検討する。
原告は一〇月八日の大会において元地方本部の消滅に伴い同本部の財産一切は原告に帰属する旨の確認決議をなした旨の主張をなすが、右大会なるものが存在せず、前示偕楽荘における集会の決議が元地方本部の意思決定としての効力なきものである以上、右主張はその前提を欠き認めることは出来ない。
およそ、組合分裂の場合における組合財産の帰属については、該財産が実質的には組合員の総有に属するものであるところから、組合員各自において当然には持分権又は分割請求権を有しないとしても、分裂によつて生じた社団たる組合自体に、分裂前の組合に属した財産に対する権利を否定する合理的な根拠は見出し難い。
かえつて分裂を組織現象として捉えるべきものである以上は、分裂の場合において、財産の総有関係もまた組織ごとに分割されて然るべきであり、実際的にも、右の組合財産は分裂後の各組合を構成する組合員がその組合活動の資金として拠出した組合費等をその主たる基盤とするのが大部分であり、かつ組合活動の財源として欠くことの出来ないものであることからみても、分裂前の組合と実質的に同じ組合員により構成され、同様の組合活動を営む分裂後の各組合に右組合財産を分割帰属せしめ、その活動資金に供することが組合財産本来の存在目的に最も則した措置と解される。従つて分裂後の組合財産の帰属については自然人の死亡における遺産に対する関係を類推して、分裂社団に対する分割を許し、例えば分裂各組合の組合員数ないしその出資の額を基準として、その権利を是認する見解も存し、かかる相続又は解散の規定の類推を迂回することが一見公平を維持する如きがあるけれども、本来分裂前の組合財産を組合員の総有として各個人の持分を否認し、脱退の場合にもその権利を否定するにも拘らず、分裂を契機として個々の組合員の持分的割合を想定し、これを根拠として各組合の持分を確定しようとすることは一貫しないきらいがある。
思うに、分裂による組合財産の帰属に関しては制定法上明文を欠くが、分裂がこれまで述べたように事実上は社団の構成員個人への還元ではなく、複数のより小さい組織の分解であつて、その限度では集団的現象であり、一個の社団の消滅と同時に数個の社団が生成せられる現象であること、しかも分裂惹起の力関係からみて、相互の反撥力が匹敵し統一が破れる段階において起るという社会的実態を直視し、且つ各分裂社団そのものの内部関係はいずれも社団として依然総有状態にあることを考えるとき、組合財産は分裂によつて分裂各組合の共有となり、その組織的な力関係が均衡する限り、各組合の持分の割合又は分割基準は端的に新組合の数に応じ均分される(即ち二個に分裂した場合は二分の一宛となる)と解することが本質に即した解決というべきである。
尤も、右のように解するときは、組合員数において優位を占める分裂組合(新組合)にとつて不利を招く場合も予想され得るけれども、分裂組合の力関係は必ずしも単に組合員数の多寡に限られず(尤も、分裂によつて生成した如く目される各組合員の構成員数に余りにも過大な差があつて、そもそも分裂と認められない場合、又は分裂と認められるが組織的な力に差異が認められる場合は別である)。他方、構成員まで遡及してその数をもつて分裂組合の受くべき分割の基準とすることは一見公平にみえるけれども、組合財産の取得から分裂までの期間には相当数の組合員の出入りがあり得るので、分裂時の組合員のすべてが該財産の取得に寄与したものとは限らず、極端な場合には一方の組合はその構成員が財産取得時の組合員ばかりで形成されるに反し、他方の組合は財産取得時に無関係な者のみで構成される事態もあり得ないことではない。したがつて、単に組合員数のみをみて分割の基準とすることが必ずしも実質的公平に合致するとは限らない。
かくして、分裂によつて生成せられる各組合の組織的な力関係が均衡する限り、その個数をもつて分割の基準とすることを正当とし、且つ本件分裂における各組合の力関係はその組合員数に拘らず、先に認定した事実関係に現われる諸事情を綜合すれば、概ね均衡するものと認めるを相当とするので、本件預金等についてはその可分債権たる性質上、前示分裂により原告及び被告両組合にそれぞれ均分に分割されることになり、また出資金についても元地方本部は前記認定の如く分裂により消滅したものと認められるので、労働金庫法第一七条第一項第二号に準じ、且つ定款に特別の定めのあることにつき主張立証なき本件においては、同法第一八条により両組合に均分の払戻請求権を是認するを相当とする。従つて、原告及び被告組合はそれぞれ被告金庫に対し右に相当する預金及び出資金額(即ち各額面額の二分の一宛)の払戻請求権を有することになる。
三、遅延損害金の請求について。
原告は被告金庫に対し本件預金等の内金につき払戻請求をなすほか、右金員につき払戻請求の後である昭和四一年一月一四日から支払済に至るまでの商事法定利率による年六分の割合の遅延損害金の支払をも請求するが、被告金庫は労働金庫法に基き労働組合等の労働者団体等を会員として組織されたもので、右団体のために金融の円滑を図ることを主たる事業とし、専ら会員の経済的地位の向上を企ることを目的とし(同法第一条)、営利活動を禁止された(同法第五条)いわゆる非営利法人であつて、商法にいわゆる商人(同法第四条)ではなく、また預金の受入、貸付等の事業をなしてはいるが、これも商法第五〇二条八号に外形的には該当するが如くみえるけれども、専ら会員間においてのみなされ、実質的にはいわゆる営業的行為に相当するものとは解されない。従つて本件において商事法定利率に関する商法第五一四条の適用はなく、民法所定の年五分の利率を超える範囲の請求は理由がないことに帰する。
四、以上によつて原告の被告等に対する本訴請求のうち、被告組合との間において原告の被告金庫に対する合計金四、四八〇、三二八円の払戻請求権存在の確認を求める部分、ならびに被告金庫に対する右同額の金員ならびにこれに対する昭和四一年一月一四日から支払済に至るまで年五分の割合による損害金の支払を求める部分に限りいずれも理由があるからこれを認容し、被告金庫に対する本件預金等払戻請求権の確認を求める部分は前掲支払請求によつて解決が図られる以上確認の利益なきものと認めるのが相当であるからこれを却下し、その余の請求部分はいずれも理由がないから失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条、及び第九三条を各適用し、仮執行の宣言に関しては適切でないのでこれを付せず、主文のとおり判決する。(平田勝雅 田川雄三 川本 隆)